ひゅぽむねーまた

日日是口實。

村上重良『世界の宗教』(岩波ジュニア新書, 1980, 2009改版)

 とおい昔でも現代でも、宗教は歴史の歩みのうえで、重要な役割を果たしてきました。宗教は、ながい歴史をつうじて、数々のすぐれた宗教文化を生み出し、宗教の教えは、人類の思想を広く深く発展させました。宗教についてくわしく学ぶことは、人類の文化をよりいっそう深く理解するうえで、きわめて大切な勉強です。(p.iv)

日本人は無宗教だという人もいるが、実際に無宗教という人を筆者はほとんど見たことがない。墓参りもすればクリスマスにお祝いもする。それは宗教の中で暮らしているということではないか。

ただし、共有しておくべき宗教的な知識ということについて、かなりお粗末なことは事実である。宗教というのは共同体を作るための、歴史的に徹底的に練り上げられた仕組みであり、反発もふくめ、人間のありとあらゆる反応を引き起こす強烈なツールである。ゆえに支配者は宗教を統治に利用する。たとえば西洋型価値観の中においてはイスラームを十把一絡げで恐怖させることに成功し、仏教を神秘的だと思わせることに成功し、「原理主義」を過激派だと思わせることにも成功している。これは間接的に宗教を利用したメディア戦略である。逆に非西洋型価値観の中では、西洋の価値観を理解しないまま否定する向きが多いのは当然だ。

宗教というのがどういう理由で、どういう社会に生まれ、どのように運用されてきているかを知っておくことは、人間というものの性質を知るうえでの最重要項目の一つと言っても過言ではあるまい。まして政治や歴史を語るうえで宗教に関する知見がないのは片手落ちもはなはだしい。

その点で、メジャーな宗教から日本人にはあまりなじみのない宗教までを通覧できるこの本は便利である。頑張れば中学生からでも読むことができ、いやしくも大学生ならば分野を問わずこれくらいの知識は欲しい。

表現として「未開」など現代にそぐわないものもあり、また宗派に関する記述はそれぞれの専門家からすればいくらでも批判はできるだろう。しかし全体としてはかなり穏当な記述だと、筆者には思える。

日本においても自己責任教や冷笑教、論破教などの信徒がかなり多いようだ。取りたくなくとも絶対に何らかの立場を取っているのであるから、「自分は何かの教義に縛られている」という感覚は持っておいたほうがよいだろう。そのためには、そのシステム群である宗教について、少し調べてみてはいかがだろうか。