ひゅぽむねーまた

日日是口實。

中谷宇吉郎『科学の方法』(岩波新書, 1958)

コロナウイルス問題で世界中が混乱している。日本ではオリンピックが強行され、各地で「言わんこっちゃない」という状況が広がっているようだ。在宅時間が増えたので、積読を崩していく。

 

福島第一原発事故でもそうだったが、科学や医学に絡む大事件が起こると、「科学的に考える」という言葉がそこかしこで聞かれる。だが、科学的とは何だろうか。あるいは、科学とは何であり、また何ができ、何ができないのか。

こういうことに答えてくれる本が、『科学の方法』(岩波新書)だ。1958年に出た本でありはなはだ古いように思われるかもしれないが、自然科学というものの原則を理解するためにはいまだもって第一級の教科書と言える。

著者の中谷宇吉郎(なかや・うきちろう)は人工雪の開発者として知られる低温物理学者。寺田寅彦の門下生であり、著作にはよく師の名が出て来る。

自然科学というものは、自然のすべてを知っている、あるいは知るべき学問ではない。自然現象の中から、科学が取り扱い得る面だけを抜き出して、その面に当てはめるべき学問である。(p.14)

そして、「科学が取り扱い得る面」とは何であるか、極めてわかり易く説明している。

 火星へ行ける日がきても、テレビ塔の天辺から落ちる紙の行方を知ることはできないというところに、科学の偉大さと、その限界とがある。(p.89)

後半でほんのわずかに数式のようなものも出て来るが、苦手な向きは読み飛ばしても差し支えない。

とにかく、高校生以上はこの本の冒頭から第6章くらいまでは読んでおくと、色々と得をする(というか大損をしない)のではなかろうか。