ひゅぽむねーまた

日日是口實。

復文で語学を学ぶ――どんな言語にも使える学び方――

ここしばらくPCから自分で文章を書くことがなかった。

 

Twitterに長いこと棲んでいる。ツリー機能が実装されてはいるが、どうしても140字という枠組みを意識して書いてしまうから、少し長めの段落を作ることが中々できない。また書いたものを見ながら続けていくのに不便だ。ブログならば少しはましだろうと思ってここに文章を書いていくことにした。

古典ギリシア語を大学でほんの少しだけ学んだが、他の語学は基本的に独学である。母が中学時代に思いついて実行した勉強法が「英文を和訳し、和訳からもとの英文を復元する。完全にできるまで何度でもやる」というものだった。総合力がつきそうだと思ったので自分でもアレンジしてやってきたが、数年前、それは漢学の基礎訓練の「復文」というものであることを知った。かのドイツ語の天才・関口存男も「逆文」と名付けて同様のことをしていたから、かなり普遍性のある方法なのだろう。

復文による学習法には次のような効果があるように思う。

  • その外国語について……単語・文法・文体と読解・記述・聴解・発話とが同時に身につく
  • 内容について……体系的な記述を通してその分野の知識や観念を得られる
  • 母語について……プロの原文・プロの和訳を交互に参照し、さらに文法をふまえて繰り返し訳文を吟味するため日本語が磨かれる

また、できたかできなかったかが自分自身でわかるので、こと独学者にはかなり嬉しい方法だと思う。

私の復文の方法を詳述すれば、以下の通り。

準備するもの
  • 原文
  • 原文の朗読(オーディオブック)
  • 邦訳書
  • 辞書
  • 文法書

 

邦訳書には、専門家からの定評があり、批判を受けるなどして誤訳が少なくなっている訳文を選ぶ。そのためには翻訳されて10年以上は経っていることが望ましい。となると原文は更に前のものとなる。読書によってきちんとした単語・文法・知識の基盤を築くのであるから、最新のものであるよりはむしろ普遍性を持った作品の方がよいように思う。

原文は、好きな作品があればそれでよいのだが、初心者はなるべくノンフィクションを選んだほうがよいと思う。フィクションはその言語のみならず文化的背景知識が必要とされる場合が多い。たとえば桃太郎や一寸法師をフランス人が読んでもかなり辛いと思う。実際に外国人が「日本の民話を読んだが、辞書に載っていない単語や、載ってはいても想像できないものが多くて閉口した」と私に話してくれたことがある。

辞書はなるべくカタカナに頼らないもので、かつ例文が豊富なものがよい。

音源は必ずしも絶対に要するものというわけではない。ただ、あるととても便利だ。発音を調べる手間をかなり省いてくれるし、リズムや調子など、文字からは読み取れない情報を与えてくれるからだ。

欧米にはオーディオブックというメディアがずいぶんと栄えている。

librivox.org

このLibriVoxなどはボランティアがアップロードした朗読を無料でダウンロードできるサイトとして大変ありがたい。もちろん出来不出来はあるものの、英語以外の朗読まで無料で落とせるのは貴重だ。またYouTubeにも同様のものがある。

これで準備万端である。

内容

大雑把に分ければ6つある。すなわち、

  • 聴く
  • 訳す
  • 直す
  • 書き写す
  • 音読する
  • 繰り返す

これは順不同である、というか、すべてを同時並行してやるようなイメージである。聴く時には頭の中で意味を理解するように努力するし、訂正する時はより正確な訳をしている、と考える。要するに「入力」「記憶」「理解」「出力」の4つを相互補完的に行うということだ。それは畢竟、語学かどうかを問わず、学習の全てだろう。

方法

順序を追って細かく分ければ以下のようになる。

  1. 邦訳をぱらぱらとめくり、気に入った章を探す
  2. よさそうな章があれば、さらにその章からよさそうなパラグラフ(段落)を探す
  3. そのパラグラフを手に何度もオーバーラッピング(音声に合わせて音読すること)をする
    ここまでで、発音やリズム、調子が多少わかってくる。

  4. パラグラフの原文を自力で――つまり辞典と文法書とを使って――ノートに和訳してみる
  5. 自分の和訳が仕上がったら、邦訳と照らし合わせる
  6. 間違いがあれば消さずに、なぜそこが間違いなのかを再度文法書や辞典を引いて調べる
    ここまでで、文法と単語とがわかってくる。

  7. チェックと修正が済んだら、今度はオーディオブックを使ってオーバーラッピングを行ない、さらに原文を伏せて、シャドウイング(音声を追いかけるように音読すること)とリピーティング(一文ごとに音声を一時停止し、そこまでを真似すること)などで最低でも20回ほどは音読する
  8. 原文を、自分の和訳をもとにノートに復元し、間違いはチェックしておく
  9. 完全に原文が復元できたら初回合格とする
    ここまでで、発音・リズム・調子・文法・単語が総合的に訓練される。

  10. 初回合格の翌日、翌々日、一週間後にもう一度復元・音読などをする

ここまでやればかなり身体に染み込んでいる。ときおり原文・邦訳・自分の和訳を読み返すと記憶が更新され、また不明点も後から「ああ、そういうことか」とわかるようになる。ただまあ、暗記を目的とせずとも暗記するくらいの回数を続けた方がよいのは当然である。

 おわりに

結局のところ読めて書けて聴けて話せればよいのだから、繰り返す回数などはもちろん各自で調整なさればよろしいと思う。結果が出せていれば方法の如何に構うことはない。ただ、こういう古典的かつ工夫の余地の多い方法はいくらでも学習者に合わせて成長してゆく。方法にこだわっていつまでも結果の出せない人に最適かもしれない、というようなことを、ふと感じた。